デイフェスや視察ツアーを通じて、これまで多くの経営者やリーダーと話をしてきました。
会社を立ち上げた人。
多くのスタッフをまとめる人。
地域や業界を変えようと、新しい挑戦を続けている人。
そんな方々と話をする中で、以前から気になっていたことがあります。
「サウナに行っている経営者が、想像以上に多い。」
もちろん、サウナが好きだから通っている人もいます。
しかし、話を聞いてみると、単純に汗をかきたい、気持ちよくなりたいという理由だけではありませんでした。
「頭の中を一度空っぽにしたい」
「嫌なことがあった日に、気持ちを切り替えたい」
「大きな決断をする前に、自分を落ち着かせたい」
経営者は、日々多くの判断を求められます。
売上のこと。
スタッフのこと。
組織の未来。
家族のこと。
そして、自分自身のこれから。
仕事が終わっても、頭の中では考え続けている。
休んでいるはずなのに、心までは休めていない。
そんな経営者にとって、サウナは単なるリフレッシュの場所ではなく、自分の状態を整え、気持ちを切り替えるための場所になっているのではないか。
今回は、理学療法士として身体と向き合いながら、サウナやウィスキングの可能性を探究している吉田さんに、サウナと心身のコントロールについて話を伺いました。
なぜ、経営者にはサウナ好きが多いのか
「経営者の方にサウナ好きが多いのは、すごく分かります」
吉田さんは、そう話します。
経営者や管理職は、仕事を終えたからといって、すぐに頭を切り替えられるわけではありません。
会社を出ても、次の日の予定を考える。
家に帰っても、スタッフとの会話を思い返す。
布団に入ってからも、売上や採用、組織の課題について考えてしまう。
身体は休んでいても、頭の中だけは働き続けている。
「サウナの良さは、強制的に日常から離れられることだと思っています。スマートフォンもパソコンも持ち込めません。入ってくる情報が一度遮断されて、自分の身体に意識が向くんです」
熱さを感じる。
自分の呼吸に気づく。
汗が流れていることを感じる。
普段は会社やスタッフ、取引先など、自分以外のことに向いていた意識が、サウナの中では自分自身へと戻ってくる。
何かを考えようとしても、次第に熱さや呼吸に意識が向き、頭の中を占領していた仕事から少しずつ離れていく。
吉田さんは、サウナには瞑想に近い側面があると話します。
常に多くの情報を処理し、判断を繰り返している人ほど、何も考えない時間を意識してつくらなければ、頭の中に余白がなくなっていく。
その余白をつくる一つの方法が、サウナなのかもしれません。
サウナは、問題を解決してくれる場所ではない
サウナに入ったからといって、会社の問題がなくなるわけではありません。
売上が急に伸びるわけでも、人間関係がすべて改善するわけでもありません。
採用の悩みも、組織の課題も、サウナを出ればそこに残っています。
それでも、多くの経営者がサウナへ通います。
それは、問題そのものを消すためではなく、問題と向き合う自分の状態を変えるためなのだと思います。
怒りや焦りを抱えたまま判断すれば、本来なら言わなくてもよかった言葉を、スタッフにぶつけてしまうかもしれない。
不安が強い状態では、必要以上に悪い未来ばかりを考えてしまうこともあります。
一度その場を離れ、身体を温め、何も考えない時間をつくる。
そうすることで、抱えている問題との距離が少し変わる。
「さっきまではすごく大きな問題に感じていたけれど、少し落ち着いて考えてみよう」
「今すぐ答えを出さなくてもいいかもしれない」
そう思えることもあります。
サウナは、答えを与えてくれる場所ではありません。
しかし、答えを考える前に、自分を落ち着いた状態へ戻してくれる場所にはなり得ます。
吉田さん自身も、サウナに救われた
吉田さんがサウナに強く興味を持つようになった背景にも、自分自身の心が不安定だった時期がありました。
当時、吉田さんは病院で理学療法士として勤務していました。
コロナ禍では、幼稚園が休みになると親も出勤できず、自宅待機を余儀なくされることもありました。
仕事へ行きたくても行けない。
生活の予定も立てにくい。
社会全体が先の見えない不安に包まれていました。
プライベートでは、子育てについても悩みを抱えていました。
活発なお子さんとの関わり方が分からず、「この子はこれからどうなっていくのだろう」と不安を感じることもあったといいます。
奥様との教育方針や考え方の違いもあり、家庭の中でも気持ちが休まらない時期が続いていました。
「メンタル的には、かなり不安定な時期だったと思います」
そんな時期に出会ったのが、サウナでした。
きっかけは、YouTubeで見たサウナについての講義でした。
そこで初めて「ととのう」という言葉を知り、興味を持った吉田さん。
しかし、すぐにサウナへ行ったわけではありませんでした。
サウナへ行く前に、まず資格を取った
吉田さんは、初めて本格的にサウナへ行く前に、「サウナ・スパ健康アドバイザー」の資格を取得しました。
普通であれば、まずサウナへ行ってみて、気に入ったら知識を深めるという順番かもしれません。
しかし、吉田さんは逆でした。
まず、知識を学んだのです。
「理学療法士という職業柄なのかもしれません。身体の中で何が起きるのかを、先に知りたかったんです。資格を持っていると入館料が割引になるという理由もありましたけどね」
そう笑いながら話します。
感覚だけで判断するのではなく、身体の仕組みを理解してから実践する。
この姿勢は、現在の吉田さんの活動にもつながっています。
資格取得後、吉田さんは地元の健康センターへ向かいました。
それまで、水風呂については「罰ゲームのようなもの」と思っていたそうです。
冷たい水に、わざわざ自分から入る。
何が気持ちいいのか、まったく理解できなかったといいます。
しかし、学んだ通りにサウナへ入り、水風呂に入り、その後に休憩を取る。
すると、これまで経験したことのない感覚がありました。
「初めて入ったときから、衝撃的でした。大げさではなく、サウナに救われたような感覚があったんです」
悩みがすべて消えたわけではありません。
子育ての不安も、仕事のストレスも、現実には残っています。
それでも、頭と身体を一度休ませる時間ができた。
自分を落ち着かせる方法を一つ見つけた。
そのことが、当時の吉田さんにとって大きな支えになりました。
「ととのう」と「追い込む」は違う
サウナが広がる一方で、吉田さんが危険性を感じている入り方もあります。
長い時間を我慢する。
限界まで熱さに耐える。
水風呂で無理をする。
立ち上がったときにフラフラしている状態を、「深くととのった」と捉える。
吉田さんは、こうした入り方に警鐘を鳴らします。
「追い込めば追い込むほどいいわけではありません。フラフラする状態は、気持ちよさではなく、身体に強い負担がかかっている可能性があります」
経営者やリーダーは、日頃から頑張ることに慣れています。
苦しくても我慢する。
限界を超えてでも、やり遂げようとする。
その姿勢は仕事では強みになることもあります。
しかし、その感覚をサウナへ持ち込んでしまうと、休むための場所でも自分を追い込むことになります。
「サウナは我慢比べではありません。大切なのは、その日の自分の体調を知ることです」
睡眠は取れているか。
疲労は溜まっていないか。
お酒を飲んでいないか。
いつもより呼吸が苦しくないか。
同じ温度、同じ時間でも、身体の反応は日によって変わります。
サウナの入り方に、絶対的な正解があるわけではありません。
施設の温度や湿度によっても違う。
座る場所によっても熱さは変わる。
その日の身体の状態に合わせて、入る時間や休憩の長さを調整する。
吉田さんは、サウナを通じて自分の身体の変化に気づくことも、セルフコントロールの一つだと考えています。
自分の状態を知ることから、コントロールは始まる
経営者やリーダーは、組織の状態をよく見ています。
スタッフの表情が暗くなっていないか。
現場の雰囲気が悪くなっていないか。
数字が落ちていないか。
問題が起きる兆しはないか。
一方で、自分自身の変化には気づきにくいことがあります。
最近、眠りが浅い。
肩や首に力が入り続けている。
呼吸が浅くなっている。
家族との会話でも、仕事のことばかり考えてしまう。
以前よりも小さなことでイライラする。
こうした状態が続いていても、「経営者だから仕方がない」「今は忙しい時期だから」と、自分の変化を後回しにしてしまいます。
しかし、心と身体の状態が崩れたままでは、判断やコミュニケーションにも影響します。
自分をコントロールするためには、まず今の状態を知る必要があります。
「自分が疲れていることに気づいていない方は、本当に多いと思います」
吉田さんは、理学療法士として長く人の身体を見てきました。
姿勢や動き方、呼吸の状態、筋肉の緊張。
本人が自覚していない身体の変化から、疲労や不調の背景を探っていきます。
そして現在は、その理学療法士としての知識と経験を、サウナやウィスキングと掛け合わせています。
サウナの中で、身体と向き合う
吉田さんが現在行っている活動の一つが、ウィスキングです。
ウィスキングとは、白樺やオークなどの植物を束ねたものを使い、蒸気や香りとともに身体へ刺激を与えるサウナ内の施術です。
植物の香りを感じながら、熱や蒸気を身体へ届けていく。
文章だけを読むと、リラクゼーションのように感じるかもしれません。
しかし、吉田さんが提供しているものは、単に気持ちよくなるための時間ではありません。
最初に身体の動きや状態を細かく確認し、その人がどこに不調を抱えているのか、なぜその状態になっているのかを考えます。
腰が痛いから、腰だけを見るわけではない。
肩が凝っているから、肩だけをほぐすわけでもない。
立ち方や歩き方、呼吸、身体の使い方などを確認しながら、不調の背景にある原因を探っていく。
そこに、理学療法士としての吉田さんの強みがあります。
「サウナの中で施術をする人はいます。ただ、理学療法士として身体を評価し、コンディショニングと組み合わせている人は、まだほとんどいないと思っています」
サウナで身体を温め、緊張を緩める。
植物の香りや蒸気によって、感覚を整える。
さらに、専門的な視点から身体の状態を確認する。
サウナと理学療法。
一見すると離れているように見える二つを掛け合わせることで、吉田さんは新しい健康へのアプローチをつくろうとしています。
心を整える前に、身体を整える
メンタルコントロールというと、考え方を変えることや、前向きな言葉を使うことが注目されがちです。
しかし、どれだけ前向きに考えようとしても、身体が疲れ切っていれば難しいことがあります。
睡眠不足が続いている。
呼吸が浅い。
身体が常に緊張している。
その状態で「もっと前向きに考えよう」と自分に言い聞かせても、簡単には切り替えられません。
「身体と心は分けられません。身体の状態が変わることで、気持ちが変わることもあります」
吉田さんはそう話します。
経営者には、考えることが求められます。
しかし、考え続けるためには、考えない時間も必要です。
前へ進むためには、一度立ち止まる時間が必要です。
誰かを支えるためには、自分自身を支える方法を持っていなければなりません。
サウナは、そのための一つの手段です。
サウナでなくてもいい
今回、吉田さんの話を聞きながら感じたのは、すべての経営者がサウナに入るべきだということではありません。
熱い場所が苦手な人もいます。
持病や体調によっては、サウナの利用を控えた方がいい人もいます。
運動をすることで気持ちを切り替えられる人もいれば、自然の中を歩く人もいる。
家族と過ごすことが、自分を戻す時間になる人もいます。
音楽を聴く。
本を読む。
一人で何もしない時間をつくる。
方法は、人によって違います。
大切なのは、自分が崩れたときに、どのような方法で元の状態へ戻れるのかを知っていることです。
自分が今、焦っているのか。
疲れているのか。
怒っているのか。
不安を感じているのか。
その状態に気づき、一度立ち止まることができるか。
経営者だからといって、いつでも強くいられるわけではありません。
迷う日もあります。
何も考えたくない日もあります。
誰かの言葉に傷つく日もあれば、自分の判断に自信を失う日もあります。
それでも、次の日にはスタッフの前に立ち、会社の未来を考えなければならない。
だからこそ、自分を戻す場所が必要なのだと思います。
経営者にも、自分を戻す場所が必要
サウナは、会社の問題を解決してくれません。
経営の答えを教えてくれるわけでもありません。
しかし、考えすぎていた頭を一度休ませ、自分の呼吸や身体に意識を戻す時間をつくってくれます。
問題に向き合う前に、自分自身を整える。
怒りや焦りのまま答えを出すのではなく、一度落ち着いた状態に戻ってから考える。
そのためにサウナを利用している経営者が多いのではないか。
デイフェスや視察ツアーを通じて感じていた疑問が、吉田さんの話を聞くことで、少しずつつながっていきました。
経営者は、組織をコントロールする前に、自分自身をコントロールしなければならない。
しかし、自分をコントロールするということは、感情を無理に抑え込むことではありません。
疲れている自分に気づくこと。
考え続けている頭を休ませること。
身体の小さな変化に目を向けること。
そして、自分を元の状態へ戻す方法を持つこと。
サウナは、その選択肢の一つです。
吉田さんは、理学療法士として培ってきた身体を見る力と、自分自身を救ってくれたサウナを掛け合わせながら、新しい健康の形を探究しています。
身体を整えることが、心を整えることにつながる。
心が整うことで、目の前の人や組織へ、より良い状態で向き合えるようになる。
サウナの中で吉田さんが向き合っているのは、単なる身体の不調だけではありません。
日々、誰かのために判断し、走り続けている人が、もう一度自分自身を取り戻すための時間なのだと思います。
PROFILE
吉田 雅俊
サウナ療法士 ヨッシー
理学療法士として培った医学的知識と臨床経験を活かし、温浴施設やサウナ施設を拠点に活動。サウナ・ウィスキングに加え、パーソナルセッションでは徒手療法と運動療法を組み合わせ、一人ひとりに合わせたコンディショニングを提供しています。
理学療法士、ウィスキングマイスター、全米ヨガアライアンス認定ヨガインストラクター(RYT200)、サウナ・スパ プロフェッショナルの資格を保有。
「身体を整え、心を整え、人生を豊かにする」をテーマに、温浴施設やイベント、企業での健康プログラムや講演など幅広く活動。医療とサウナをつなぐ架け橋として、健康寿命・貢献寿命の延伸を目指した新しいヘルスケアの普及に取り組んでいます。
