帰宅願望について
目次
1、簡単な説明
2、介護の目標
3、基本原則
4、帰宅願望の原因
5、対応のポイント
6、環境調整の工夫
7、事例
1、帰宅願望とは
帰宅願望とは、認知症の中核症状から来る周辺症状の1つです。
一般的に帰宅の要求を頻繁にし、実際に帰宅をしようと外に出て行こうとします。
自宅にいても「家に帰りたい」と言い出し、以前住んでいた家に帰ろうとするなどの行動がみられます。
認知症がある方のケアをした事がある方なら、一度は経験しており、対応に悩んだ事があると思います。
2、帰宅願望に対する介護の目標
帰宅願望への介護の目標は、帰りたいという思いや外に出ようとする行動を減らすことだけではなく、帰りたい理由を知り、原因に応じた対応を行うことで、利用者が安心し、生活意欲が湧いてきた結果として、帰宅の要求や行動が少なくなる、または無くなることです。
この順番を間違わないようにしましょう。
3、基本原則
「帰りたい」という背景には不安や焦り、孤独感といった心理的な要因があります。 帰宅願望の理由は人によりますが、共通するのは「現状への不安があること」です。不安を和らげ、生活意欲が湧くようにするには、以下の基本原則を大切にしていくことが重要になります。
①帰宅願望=悪いことと捉えないこと
人は、知らない場所や知らない人が周囲にいれば、不安になり、その場から逃げ出したいと思います。
そのような場所にいたくない、帰宅したいと思うことは、誰でも抱く感情です。
そのため、帰宅願望自体は悪いものではありません。
自分がいる場所ではないと思えば、自分を受け入れてくれる場所へ行こうとすることは、当然のことと思います。
問題なのは、帰りたい理由や目的、あるいはその原因となっている感情が本人にとって有害かどうかです。
ここには居場所がなくて、 ここから逃げ出したいとか、早く立ち去りたいとか、不安や孤独感などが原因となって帰宅願望を引き起こしているのであれば、不安や孤独感、焦燥などの不快な感情を緩和し、落ち着いてもらうことが必要です。
②気持ちを無視したケアを行わない
帰りたいという、気持ちを抑制することや、排除するのは良くありません。
帰宅願望を訴える方に対して、明らかな嘘をついたり話を聞かずに曖昧に返答すると、より不安を煽ることになります。
帰りたいと訴えている方は、不安な気持ちが背景にあるため、周囲の人に信頼がおけない状況にあります。
そんな方の訴えを無視してしまうと、信頼関係が構築できずにいつまでも帰宅願望は解決しません。
本人の訴えをじっくり聞き、嘘をついたり、濁した解答は行わない方が、長期的に見て帰宅願望が減少していくとされています。
③大事なのは、帰宅願望が出ていない時の過ごし方
帰宅願望が出ていることには、必ず理由があると話しました。
その理由を取り除くことは、大切です。
でももっと大切なのは、帰宅願望の出ていない時間にどう過ごしているかを観察することです。
利用者さんが安心して過ごせることで、帰宅願望が出なくなるように予防することです。
帰宅願望が出るのにも理由がありますが、落ち着いているのにも理由があります。
その理由を探ることが大切になります。
4、帰宅願望の原因
〜現状に不安があることが帰宅願望を引き起こす〜
帰りたいという背景には不安や焦り、孤独感といった心理的要因があります。 帰宅願望の理由は人によりさまざまですが、共通する点があります。
それは、「現状への不安があること」です。
原因1 「中核症状によるもの」
見当識障害や記憶障害があることで、周りの環境が知らない人、知らない場所であるという事があります。知らない環境に身を置くことは人を不安にさせますよね。
原因2 「夕暮れ症候群の影響」
認知症の方は、外が薄暗くなると落ち着かなくなり、不安を表出しやすいといわれます。夕方に認知症の方が「家に帰る」と訴えることを、夕暮れ症候群と呼びます。
私たちも夜になれば仕事や学校から帰宅するように、自分の家ではないと感じている方は、帰る必要があると考えるようです。
原因3 「環境の要因」
自分のいる場所が「しっくりこない」と、人は不安を抱きやすくなります。
帰宅願望のある方には、自然と過ごせる環境や居心地がいいと思える場所を用意することが大切になります。環境は、単に空間だけではなく人間関係も含みます。仲が悪いとか、話が合わない人と距離を置くだけでも帰宅願望が減少することもあります。
原因4
中核症状以外の要因
暑い寒い、眠い、お腹がすいた、のどが渇いた、便秘、などといった生理的欲求が満たされないことでも、なんとなく不安な気持ちを抱き、それが帰宅願望として表出する事があります。この「なんとなく」の気持ちを言葉で表現するのが上手くいかない方が、結構いるようです。
5、対応のポイント
① 間違っていても訂正しない
通常、私たちは会話の相手が事実と異なることを話していたら、間違いを指摘し、説明することで、 理解してもらおうとします。
しかし、認知症の方に間違いを指摘するような声掛けは、混乱を強めてしまう場合があります。
「仕事が終わったからそろそろ帰らないと」と話す入居者に「仕事なんてしていませんよ。ここにいてください」と完全に否定してしまうと、混乱が強くなる恐れがあります。
本人の仕事を終えたという言葉にねぎらいを表して、「本当に助かりました。お疲れだと思うので、お茶を飲んでゆっくり休んでください」のようなリラックスできるような声かけをするといいでしょう。
② 心地よい時間を増やす
帰宅願望が出ている時間もそうですが、落ち着いている時にこそヒントがあります
落ち着いている時が必ずあります。その時の共通点を探してみましょう
裁縫や習字など、本人の好きな活動や自宅で行っていたことがあれば、それを提案してみましょう。ま
た、料理や掃除などの家事を通して得られる他者との交流も、本人の安心感や居場所作りにつながりやすくなります。
③ 嘘をついたり濁したりしない
帰宅願望を訴える方に対して、明らかな嘘をついたり話を聞かずに曖昧に返答すると、より不安を煽ることになります。
帰りたいと訴えている方は、不安な気持ちが背景にあるため、周囲の人に信頼がおけない状況にあります。
そんな方の訴えを無視してしまうと、信頼関係が構築できずにいつまでも帰宅願望は解決しません。
本人の訴えをじっくり聞き、嘘をついたり、濁した解答は行わない方が、長期的に見て帰宅願望が減少していくとされています。
④ 原因となる不安を解消する
帰宅願望には原因があることが多く、その原因を明らかにして解消することで症状が和らぐ可能性があります
帰宅しようとしている方に対して、「お困りのようですが、どちらへ行かれるのですか?」と、まずは率直にどこに帰りたいと思っているのかを聞いてみましょう。
そして、本人の訴えをじっくり傾聴しながら肯定的な声掛けをしていきましょう。
さらに、「よろしければ、そうしたい理由を教えてくださいませんか」などと、なぜ帰りたいのかを理解しようとしている姿勢を表しましょう。
本人の気持ちに応じた対応をすることで、自然と帰りたいという想いも減少していくとされています。
6、環境調整の工夫
①グループの人数を調整する
一般に、スペースが大き過ぎる環境は認知症の人には適さないと言われます。
たくさんの人がいればそれだけ情報量も大きくなり、混乱をきたしやすくなるからです。
認知症により、記憶の容量が少なくなっていくため、五感から入る情報と記憶を統合することに苦労します。
帰宅願望に対してグループや人数の調整をする場合は、情報量(人数)と、そこでの一員・仲間で あるという感覚を大切にして調整をする必要があります。
②落ち着けるスペースを用意する
ゆっくり話ができる場所を作る
帰宅願望の訴えがあったときに、大きなスペースで、たくさんの人の中で話をしても、認知症の人の集中力がもちません。
また周囲の影響を受けやすい状態にもあります。
テレビや周囲の雑音が入らない場所に誘導し、ゆっくりと話を聞くことで、本人もスタッフも落ち着いて対応することができます。
③専用の席を用意する
専用の場所とは、スタッフが「ここに座って」と座らせる場所ではなく、その人が自然と過ごせる環境や 雰囲気の場所であることが重要です。日頃から本人の 行動をよく観察することで、くつろげる場所を探しておきましょう。
本人が「居場所」として認識できる空間があれば、帰宅願望の訴えも少なくなることが期待できます。
④席の位置を調整する
「見守りのしやすさ」というスタッフからの目線ではなく、「他人の視線を気にせずにゆっくりと くつろぐことができる」認知症の人の目線で、生活環境づくりに取り組んでいく必要があります。
例えば、窓から外の景色が見える、柱や家具などで人の視線を遮るなど、気持ちが影響を受けにくい環境を、本人と確認しながら選択していくことが重要です。
⑤座席を自由に移動できる様にする
日本の茶の間と同じように、リビングは人が集い、生活の中心となる場所と考えられます。
人それぞれではありますが、テレビを見る、新聞を読むなど静かに過ごすことができる、また利用者同士でソファに座って談話されるなど、リビングではくつろいで、自由に時間が過ごせるような工夫 が必要となってきます。
また、一か所にとどまらず居場所が選択できることも重要なことです。
⑥五感に入ってくる情報を調整する
音や声、騒音、色や模様など生活環境の刺激にはさまざまなものがあります。
認知症の人にとって、強い刺激はストレスになり過敏に反応することがあります。
五感(視覚、聴覚、味覚、 嗅覚、触覚)から得る刺激や情報を理解し、整理・調整する能力が低下することが原因として考えられます。
逆に不快に感じない適度な音や光の刺激を調整することで気持ちを和らげる効果があり、認知症の人が落ち着いて暮らすことに役立ちます。
⑦好きな音楽を流し、ゆっくりと過ごせる環境をつくる
音楽は気持ちをリラックスさせる効果があると言われています。
音楽の好みは人それぞれであり、童謡・民謡などの音楽に反応する人もいますし、昔の歌謡曲・ 演歌に反応する人もいます。
認知症の人が「帰らなきゃ!」という気持ちで頭の中がいっぱいの時や興奮状態の時に、好きな音楽に耳を傾けることができる空間や場所・ 時間があれば、本人が落ち着くきっかけを作ることもできます。
8、事例
①Aさんの事例
「やるメンバーとやることを固定し取り組んだ+席の配置」
Aさん(女性)は、デイサービス利用開始当初は、不安感や焦燥感があり、お昼ご飯を食べ終わると、荷物をまとめ「お世話になりました。帰らせていただきます。」とおっしゃりました。
お話を聞くと一時的に落ち着きますが、5分おきくらいに同じ言動が見られておりました。
行動の理由に、何をしたら良いのかわからない事、知らない人ばかりで不安があると想定し、食事の支度や洗い物などAさんの1日のルーティンを決めて、「これをした後は、これをする」というのを同じにしました。
また、食事の支度や洗い物、座席などを顔馴染みになるように配慮しました。
すると、次第にデイサービスが居場所になり、「ここに来ると楽しいわ」とおっしゃるようになり、2週間ほどで帰宅願望が見られなくなっていきました。
②Bさんの事例
落ち着いている時を評価。
集中している時、嫌いな人がいない時
次はBさんの事例です。
Bさんは、感情失禁や帰宅願望が見られる方でした。
ただ、観察していると、一日中症状が見られるわけではなく、落ち着いている時間がありました。
そのため、基本原則③を基に、落ち着いているのはどういう時か?の目線で見ていると、好きな活動「塗り絵」をしているときや、苦手な人がテーブルにいないときは、落ち着いていることがわかりました。
取り組みとして、座席順の工夫とBさんが集中して取り組める活動の提供を行いました。
結果的に、症状がゼロにはなりませんが、Bさんが落ち着いて過ごせる時間が増えました。
まとめ
目の前の利用者さんが帰宅願望を訴えてきた時は、先述の基本原則を忘れずにアプローチしてみてください。
先にも述べましたが、大事になるのは、帰宅願望を無くすことではなく、利用者さんが心地よい時間を過ごせる時間を過ごせることです。
そのヒントは、利用者さんが心地よく過ごしている時間にこそあります。
よく観察していくようにしましょう。
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