デイ利用者の認知機能低下による摂食嚥下障害(先行期)
【摂食嚥下の5期モデル】
先行期(認知期):飲食物を認識して口に取り込むまでの段階
準備期:口に取り込んだ食べ物を噛み砕き、飲み込みやすい形状にする段階
口腔期:噛み砕いた食べ物をのどへ送り込む段階
咽頭期:食べ物を飲み込み、咽頭へから食道へ送り込む段階
食道期:食べ物を食道から胃へ送り込む段階
このように「食べる」ためには一連の流れが必要であり、いずれかの機能で不具合が生じた場合に食べにくさを感じることになります。
ではデイサービスの昼食場面で見かける食行動の障害が、それぞれどの段階の原因が関与していることにより起こっているのかを説明していきたいと思います。
先行期(認知期):飲食物を認識して口に取り込むまでの段階の対応
この段階は「食事をする場面である」「目の前にある物が「食べ物」である」ということを認識できていないことにより生じている摂食嚥下障害です。認知機能の低下が進むことで必発すると言っても過言ではありません。ただし原因はこの段階のみとは限らないことも多いのです。
先行期(認知期)における摂食嚥下障害は、機能訓練としての介入より日常生活動作への支援がメインになります。先行期段階の原因であるそれぞれの場面において対応方法の一例を検討していきます。
事例① 配膳されてもなかなか食べようとしない
(対応方法)
「場面、状況」がわからず混乱している可能性がありますので、利用者さまに食べてもよいことを伝えてあげてください。例えば、ここはレストランで注文もしていないのに食事が運ばれてきた、払うお金を持っていないから食べてはいけないなどと考え込んでしまっているかもしれません。
事例② 「食べ始めても途中何度も手が止まってしまい食べ進まない」
「キョロキョロして落ち着きがなく集中して食べない」
(対応方法)
食事に集中できず注意が持続しない状況です。食事に集中できる環境設定が必要です。視界に他利用者さまやスタッフ、テレビ画面が入らない場所を選ぶ、出来るだけ短時間で食べ終えられるような一部介助も必要です。介助者が利用者さまの視界に入る阻害因子をブロックするように座り介助者に気を向けることも有効です。
それでも殆ど食べ進まなければ、準備期・口腔期・咽頭期・食道期の原因を掘り下げていく必要があります。
事例③ 食べこぼしが多くなった、また食べこぼしたものを気にして執着する
(対応方法)
こちらも食事に集中できず注意が持続しない状況、加えて視空間認知の障害も関与していると考えられます。加齢による口唇や舌の運動機能の低下、上肢・座位保持の障害も考えられます。
食べこぼしを気にせず食事に集中できるよう、介助者が食べこぼしたものはティッシュなどで素早く取り除きます。また食器の絵柄、テーブルの傷、食べこぼし防止のエプロンの柄を食べこぼしと思い込み気にすることも少なくありません。それぞれ無地のものにするなどの環境設定が必要です。
事例④ 食べ物は食べず箸や食具で突く、混ぜこぜにして遊んでいる
(対応方法)
目の前にあるものが「食べ物」であるということを概ね認識できていない状況にあるため食事にも集中できず注意が持続しない状況です。食事提供の際は無地の皿もしくはボウル皿にワンプレートにします。
事例⑤ 食事が出てきても、傾眠傾向で覚醒が悪く食べない
(対応方法)
1日の時間的な見当識が失われてきていることで昼夜が逆転し、午前中~昼食時に傾眠し覚醒不良となる利用者さまも少なくありません。食事であることを認識させられたとしても覚醒不良であれば無理に食べさせないことで誤嚥予防に繋がります。覚醒が良くなったタイミングを見て再度食事提供するなどの配慮が必要です。
事例⑥ ぼぉーっとしていて食べない
(対応方法)
認知機能の変動が大きい、ON-OFFといったムラがある利用者さまも少なくありません。ぼぉーっとしたOFF状態のタイミングを避けて食事提供するなどの配慮が必要です。パーキンソン病、レビー小体型認知症の利用者さまに多くみられる傾向です。
事例⑦ もうお腹いっぱい、もう食べられないという拒否発言や口を開けず拒否する
(対応方法)
こちらも食事に集中できず注意が持続しない状況からよく聞かれる発言です。摂食、満腹中枢の異常も考えられます。食事場面で「食べている」という認識に乏しく食べること自体がよくわからなくなっていることから、食事が面倒で億劫になっていることが推測できます。
利用者さまに「あと二口で終わりですよ」「おかずだけは全部食べましょうか」など見通しを伝えることで食べ進むことも少なくありません。また時折お皿を見せて食べ進んでいることを認識してもらうことも有効です。
介助者が黙々と食事介助のみするのではなく利用者さまに声掛けやコミュニケーションを図り、食事は楽しいという雰囲気作りも大切です。
事例⑧ 口に入れる食べ物の一口量が多い、飲み物を一気飲みしようとする、もしくは飲まない
(対応方法)
これもまた食事に集中できず注意が持続しない、注意散漫、加えて脱抑制によりコントロールが効かない状況です。また摂食中枢にも異常がみられることから、食べ物を次々と口の中に取り込むがなかなか飲み込めず口の中に溜め込んでいる利用者さまもおられます。その逆も然りです。
声掛けやさりげなくこれ以上口に運ばないよう手で制してみる、食具を小さいものに変更する、飲み物はストロー飲みに変更するなどの検討をします。声掛けでは手を出さず飲み食べ進まない場合は介助が必要です。
今回は、先行期(認知期)での摂食障害について、8事例を通して対策を紹介いたしました。
次回は引き続きデイサービスの昼食場面で見かける食行動の障害の中で、準備期~食道期段階の原因が関与していることにより起こっていると考えられる状態について対応方法の一例を検討しお話したいと思います。
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