「障害のある人を助けたい」
福祉の世界に関わる人であれば、一度は抱いたことのある思いかもしれない。
しかし、株式会社ePARA代表取締役の加藤大貴さんは、現在、その言葉とは少し異なる場所に立っている。
加藤さんが大切にしているのは、「助けたい」という気持ちよりも、障害のある人に対する「リスペクト」だ。
障害があっても、自分の人生を自分で選び、努力し、挑戦を続けている人がいる。
その人たちを、一方的に支援される存在として見るのではなく、一緒に未来をつくる仲間として向き合う。
バリアフリーeスポーツを通じて加藤さんが目指しているのは、障害のある人が特別扱いされる社会ではない。
「障害者のため」と言わなくても、誰もが自然に参加し、働き、活躍できる社会だ。
今回は、加藤さんが福祉の世界に進んだ原点、eスポーツに可能性を感じた理由、そして、これからの福祉に必要な考え方について伺った。
「もっと早く、目の前の人に届く変化をつくりたい」
加藤さんは、もともと国家公務員として裁判所に勤務していた。
法律に関する知識を持ち、安定した環境で働いていた加藤さんが、なぜ福祉の世界へ進むことになったのか。
その背景には、日々の働き方や、組織の中で変化を生み出す難しさに対する思いがあった。
「当時は埼京線で通勤していたのですが、満員電車がかなり大変で、働き方そのものを見直したいと思うようになりました」
裁判所の仕事では、公平性や正確性が求められる一方、業務の仕組みを変えるには多くの時間を要することもあったという。
「改善したいと思うことがあっても、すぐに変えられる環境ではありませんでした。もっと早いスピードで、目の前の人や社会に届く変化をつくりたいと考えるようになったんです」
また、裁判所という立場上、相談に来た人に対して、直接的な支援を行うことが難しい場面もあった。
「困っている方がいても、自分の立場では直接お手伝いできないことがありました。制度を案内するだけではなく、もう少し近い距離で人と関わる仕事がしたいという思いが強くなっていきました」
その思いの背景には、親族がアルコール依存症や認知症になった際、家族がどこに助けを求めればよいのか分からず、苦労した経験もあった。
法律の知識と自身の原体験を生かせば、福祉の分野で自分だからこそできることがあるのではないか。
そう考えた加藤さんは、裁判所を離れ、社会福祉協議会へ転職した。

「助けなければ」という思い込み
福祉の世界に入った当初、加藤さんの中には「困っている人を助けなければならない」という強い思いがあった。
ところが、実際に障害のある人たちと話してみると、その考えは少しずつ変わっていった。
「恋愛の話もするし、ライブにも行く。自分よりお小遣いを持っているなと思うこともありました(笑)。普通の人たちだったんです」
もちろん、生活の中で支援が必要な部分はある。
例えば、金銭管理が苦手なのであれば、その部分を支える。ただし、人生のすべてを支援者が背負う必要はない。
「金銭管理が苦手な部分だけを助ければいいんだと気づいて、肩の荷が下りました」
障害があるから、すべてを助けなければならない。
福祉に関わる側がそのように思い込むことは、本人の持っている力を見えにくくしてしまう可能性もある。
必要なのは、その人の人生を代わりに背負うことではない。
何に困っていて、何なら自分でできるのか。その人自身を見ながら、必要な部分にだけ手を差し伸べることだ。
加藤さんは、この気づきを多くの人に知ってもらうためには、障害のある人とない人が自然に出会える「接点」が必要だと考えた。
落語会やエンディングノートのセミナーなど、さまざまな企画を試した。その中で、楽しみながら継続的な接点をつくれるものとして注目したのが、eスポーツだった。
なぜ、eスポーツだったのか
加藤さんが福祉とeスポーツを掛け合わせた活動を始めたのは、2019年頃だった。
海外には、平均年齢70歳を超えるeスポーツチームがある。
年齢や障害、生活する場所に左右されにくいeスポーツは、福祉との相性が良いのではないか。
加藤さんは、そこに可能性を感じた。
ただし、ePARAが目指しているのは、単に障害のある人がゲームを楽しめる場所をつくることではない。
eスポーツを通じて、これまで見えなかった能力や個性を発見し、仕事や社会参加につなげることだ。
「福祉の現場では、『仕事がない』『やりがいのある仕事を紹介してほしい』という相談が多くありました。eスポーツを通じて、ITスキルやコミュニケーション能力を可視化し、リモートワーク人材として就労につなげられないかと考えたんです」
実際に、最初のイベントから3人の就職が決まった。
ゲームをしている姿からは、操作技術だけではなく、その人の集中力、判断力、コミュニケーション能力、IT機器への理解など、さまざまな能力が見えてくる。
全盲のプレイヤーが『ストリートファイター6』をプレイしていると聞けば、多くの人は驚くだろう。
「どうやって操作しているのか」
その疑問が、最初の接点になる。
そこからアクセシビリティの仕組みを説明すると、話は次の段階へ進む。
- 「Zoomは使えますか」
- 「アプリの開発もできますか」
- 「仕事としてお願いできることはありますか」
障害の説明から始まった会話が、いつの間にか能力や仕事の話へと変わっていく。
それこそが、eスポーツを活用する面白さだと加藤さんは話す。

「障害」より先に、その人の能力が見える
日常生活の中で、障害のある人と接点を持つ機会が少ない人もいる。
接点がなければ、「どのように話せばいいのか分からない」「何ができるのか分からない」といった不安が生まれる。
しかし、ゲームという共通の話題があれば、自然に会話が始まる。
対戦すれば、障害のある人が勝つこともある。ゲームの操作を教える側になることもある。
そこでは、支援する側と支援される側という関係が変わっていく。
障害のある人が「助けられる人」ではなく、「すごい人」「教えてくれる人」「一緒に仕事をしたい人」として見られるようになる。
eスポーツは、その人の能力を一から説明しなくても、実際の姿を通して伝えられる。
加藤さんにとってeスポーツは、障害者のための特別な娯楽ではない。
人と人が出会い、互いの見方を変え、仕事や社会参加につながる可能性を生み出す手段なのだ。
可能性を信じるだけでは、仕事にならない
障害のある人の個性や能力を見つける。
その考え方には、多くの人が共感するだろう。
しかし、可能性を見つけただけでは、仕事や収入にはつながらない。
誰かから対価を得るためには、相手が必要としている価値を提供しなければならない。
加藤さんは、障害があることを理由に、仕事の基準を下げるわけではない。
「助けたいというより、リスペクトなんです。視覚障害や聴覚障害、筋ジストロフィーがあっても、『自分はこう生きたい』と努力している人がいる。そういう人は社会的にもったいないから、応援したいと思っています」
その一方で、本人の姿勢によっては、厳しい話をすることもある。
「自分で努力せず、周りに甘えてしまっている人に対しては、うちはそういう機関ではないと伝えます」
支援することと、何でも受け入れることは同じではない。
守ることと、挑戦する機会を奪うことも違う。
特別支援教育などの中で守られてきた結果、失敗や挑戦を経験する機会が少なかった人もいるという。
そのような人に対しても、加藤さんは、一人の仕事仲間として向き合う。
障害があるから優しくするのではない。
本人が望む人生を実現するために、必要であれば厳しいことも伝える。
そこには、支援する側とされる側という一方向の関係ではなく、互いを尊重しながら同じ目標に進む関係がある。

埋もれた個性を発掘する
ePARAは現在、「個性を発掘し、未来をつくる。」というミッションを掲げている。
以前は、「すべての人が活躍できる社会」という言葉を使っていた。
しかし、加藤さんの中には、どこか違和感があったという。
すべての人を一方的に助け、活躍させることが、ePARAの役割なのだろうか。
考え続けた先に残ったのが、「埋もれた個性を発掘する」という考え方だった。
「まだ発見されていないけれど、すごい人を見つけて磨き上げる。それが自分たちの使命だと思っています」
加藤さんが一緒に未来をつくりたいと考えているのは、自分の人生を諦めず、努力し、熱量を持っている人だ。
能力がないわけではない。
活躍できる舞台や、能力を見つけてもらう機会がなかっただけかもしれない。
その人の個性を発見し、磨き、社会とつなぐ。
そして、その世界観に共感する企業や仲間とともに、新しい仕事や舞台をつくる。
ePARAが提供している最も大きな価値は、ゲーム大会そのものではない。
社会の中に埋もれている個性を見つけ、「この人と一緒に仕事がしたい」と思ってもらえる場所をつくることだ。
妄想は、口に出した瞬間から計画になる
加藤さんは今後、海外、特にサウジアラビアでバリアフリーeスポーツのイベントを開催したいと考えている。
最初はFacebookで、「ムハンマド皇太子とつながりたい」と発信したという。
周囲から見れば、現実味のない話に聞こえたかもしれない。
それでも、会う人すべてに構想を話し続けた。
すると、国会議員から経済産業省の補助金を紹介され、実際に採択された。その実績を一つの武器にしながら、現地の公益団体などへ共感の輪を広げている。
「妄想を言い続けることは大事だと思いました」
ただし、夢を語るだけでは、相手は動かない。
海外や大企業と連携する際には、相手にどのようなメリットを提供できるのかを、徹底して考える必要がある。
「一緒にやりましょう、というスタンスが大事です。世界にどんなプラスがあるのか、相手の会社にどのようなインパクトがあるのか。断れないオファーをどれだけ用意できるかの勝負です」
相手企業のIR情報や経営計画、経営者の書籍まで読み込み、相手が10年後に実現したいことを理解する。
そのうえで、自分たちと組むことが、相手の未来にどうつながるのかを提示する。
福祉だから協力してほしいとお願いするのではない。
相手の未来にも必要な事業として提案する。
この考え方は、福祉が社会の中で継続的な事業をつくっていくうえで、重要な視点ではないだろうか。

福祉の未来は、「助ける」の先にある
これまでの福祉が、多くの人の生活や権利を守ってきたことは間違いない。
支援や配慮を必要としている人もいる。
しかし、守ることだけが福祉の役割ではない。
本人が持っている力を信じ、時には挑戦を促し、活躍できる場所を一緒につくることも必要だ。
加藤さんが目指しているのは、障害のある人を囲い込むことではない。
「利用者を囲いたいわけではありません。一緒に世界を広げたい人と事業をやりたいと思っています」
障害のある人が、福祉サービスの中だけで活動するのではなく、企業や地域、世界とつながり、自分の力で価値を生み出していく。
そのためには、福祉に関わる側も、本人を「助ける対象」としてだけ見ないことが求められる。
「何ができないのか」ではなく、「何に熱量を持っているのか」。
「どのような支援が必要か」だけでなく、「どのような価値を社会に提供できるのか」。
そうした視点が広がった先には、「障害者のためのイベント」「障害者のための仕事」と、あえて言わなくてもよい社会があるのかもしれない。
障害の有無に関係なく、面白いから参加する。
能力があるから仕事を依頼する。
一緒に未来をつくりたいから仲間になる。
加藤さんがバリアフリーeスポーツを通じてつくろうとしているのは、誰かを一方的に助ける社会ではない。
一人ひとりの個性を見つけ、互いをリスペクトしながら、ともに新しい可能性をつくっていく社会だ。
福祉の未来は、「助けなければならない」という思い込みを手放した先にあるのかもしれない。