「もっとたくさんの人に笑顔になってもらいたい」

髙見さんの話を聞いていると、この思いがキャリアの中心にあることが分かる。

理学療法士として現場に立っていた頃も、そして働き方が大きく変わった今も、その根っこにあるものは変わっていない。

現在は、理学療法士として患者さんや利用者さんと直接向き合う働き方から少し離れ、社内の人や会社の外にいる人たちと関わりながら、組織の思いや魅力を伝えたり人と人をつないだりする仕事に携わっている。

関わる相手も、仕事の内容も、現場にいた頃とは大きく変わった。

それでも髙見さんの話を聞いていると、今の仕事と理学療法士として過ごした時間は、決して別々のものではないことが見えてくる。


「もっと外に出たい」と思うようになった

髙見さんは、もともと「地域に根差した医療・介護に関わりたい」という思いから理学療法士を目指した。

整形外科の外来で患者さんと向き合い、その後は通所リハビリにも携わった。

管理者を経験し、地域ケア会議などにも参加するようになると、少しずつ病院や施設の外にも目が向くようになった。

「もっともっと、たくさんの人に笑顔になってもらいたいなっていう思いが、ずっとあったんです」

目の前の患者さんや利用者さんと関わることは楽しい。

一方で、病院の中でフルタイムで働いていると、外に出られる時間には限りがある。

もっと地域に出てみたい。もっといろいろな人と関わってみたい。

そう思っていても、当時はどう動けばいいのかまでは分からなかったという。

そんな時に参加したのが、JPTSAのイベントだった。

「学生たちから力をもらおうと思って行ったんです」

ところが、そこで刺激を受けたのは学生だけではなかった。

イベントに来ていた大人たちを見ながら、「この人たちは普段、どういう働き方をしているんだろう」と興味を持つようになった。

そこでの出会いが、髙見さんのキャリアを大きく動かしていく。

髙見悠太さん インタビュー

「そのビジョンなら、現場じゃないよ」

イベントをきっかけに、現在働いている会社を見学する機会が生まれた。

そこで感じたのは、自分がこれまで思い描いていたこととの重なりだった。

地域に根差していること。利用者さんを大切にしていること。そして、一緒に働く人たちのことも大切にしていること。

「自分がずっとやりたかったビジョンと、すごくマッチしていたんですよね。見学から帰る頃には、“多分ここで働くんだろうな”と思っていました」

その時、髙見さんは自分の思いを伝えた。

「日本全国の人を笑顔にしたい」

すると返ってきたのが、「そのビジョンなら、現場じゃないよ」という言葉だった。

理学療法士として現場に立てば、目の前の人に直接関わることができる。

ただ、もっと多くの人に思いを届けたいのであれば、自分一人が直接関わる方法だけではない。

人を動かしたり、組織を通して広げたりする方法もある。

「日本全国を笑顔にしたいなら、現場にいたら関われるのは100人ちょっとでしょ、と言われたんです」

笑顔を届ける方法は、
現場に立つことだけではない。

その言葉は、髙見さんにとって新しい働き方を考えるきっかけになった。

現場を離れて、初めて分かったこと

転職後、髙見さんの仕事は大きく変わった。

理学療法士としての知識や技術を、そのまま使う仕事ではない。

会社のことを知り、相手のことを知り、自分たちが大切にしているものを言葉にして伝える。

「新しいことに挑戦して、学んで、また学んで、という感じでした」

そして、働く相手も大きく変わった。

医療や介護の現場では、周囲の多くが専門職だった。

今は、医療・介護とは異なる経験を持つ人とも仕事をする。

そこで初めて、自分にとっての「当たり前」が、相手にとっては当たり前ではないことに気づいた。

患者さんや利用者さんと毎日関わること。感謝の言葉を直接もらうこと。相手の生活や人生に触れること。

現場では日常だったことも、違う環境に行けば共通の感覚ではない。

時には、言葉の受け取り方や考え方の違いに戸惑うこともあったという。

反対に、髙見さん自身も「現場を知らない人」と思われたことがあった。

転職後はスーツ姿で働いていたため、理学療法士として現場に立っていたことを知らない人もいた。

「“現場も知らないのに何が分かるんですか”みたいなことを言われたこともありました」

その時は、「誰よりも知ってるわ、って思いましたけどね(笑)」と振り返る。

ただ、それ以上に感じたのは、「まだ、自分のことを知ってもらえていないんだな」ということだった。

知られていないなら、知ってもらえばいい。

その考えが、今の髙見さんの人との関わり方にもつながっている。

髙見悠太さん

知ってもらう前に、まず相手を知る

髙見さんが今、人と関わる上で大切にしていることを聞くと、とても具体的な答えが返ってきた。

「会った時に、絶対名前を呼ぼうって決めています」

店舗を訪れる時には、事前にスタッフの顔と名前を確認する。

そして、実際に会った時には名前を呼んで声をかける。

「“なんで私の名前知ってるんだろう?”って思ってもらえたら、そこから話すきっかけができるので」

まず自分から相手を知る。そこから少しずつ、自分のことも知ってもらう。

髙見さんは、人前ではできるだけ楽しそうに振る舞うことも意識している。

「基本、人の前ではニコニコして、ベラベラ喋るようにしています。本当はシャイなんですけど(笑)」

話している時の髙見さんを見ていると、この言葉がすごくよく分かる。

単純に明るいというよりも、相手が話しやすい空気をつくろうとしている。

楽しんでもらうために、自分から一歩近づいている。

そんな印象を受ける。

「この人のスイッチはどこだろう」

もう一つ、印象に残った言葉がある。

「この人が何に対して反応してくれるのかな、っていうのをまず探ります」

髙見さんは、誰かに何かを伝える時、最初から自分の話を一方的にするわけではない。

相手の反応を見ながら、いくつか話題を出してみる。

「引き出しをどんどん開けてみて、“ここだ”っていうところを探す感じです」

相手の興味や大切にしているものが見えたら、そこから自分の思いを伝えていく。

そして、髙見さんはこの感覚を、「これって、理学療法士の強みなのかなと思っています」と話した。

理学療法士は、患者さん一人ひとりによって関わり方を変える。

同じ言葉でも、響く人と響かない人がいる。

相手を見て、反応を見て、伝え方を変えていく。

現場を離れても、
「人を見る力」は残っている。

現場を離れた今も、理学療法士として培ってきた「人を見る力」は、違う形で髙見さんの仕事に生きている。

キャリアが変わったからといって、これまでの経験がなくなるわけではない。

むしろ違う場所に出たからこそ、自分が自然にやっていたことが強みだったと気づくこともある。

髙見悠太さん

「老いるって、希望なんだ」と思える場所をつくる

今、髙見さんが特に力を注いでいるのが、シニアの方々を主役にしたイベントだ。

その中では、シニアの方々がファッションショーのランウェイを歩く。

「介護とか、“老いる”っていうことは、ネガティブに捉えられることが多いと思うんです」

でも、髙見さんは介護の現場を知っている。

年齢を重ねても、生き生きと過ごしている人がいる。

新しいことに挑戦している人もいる。

「実際に輝いているシニアの方々がランウェイを歩いて、それを見た人が、“老いるって希望なんだな”“かっこいいんだな”って思ってくれたらいいなと思っています」

最初はファッションショーだけだった企画も、少しずつさまざまな人や企業を巻き込むものへと広がっている。

髙見さんがそこで大切にしているのも、やはり「伝えること」だ。

「イベントをする目的や理由を、しっかり伝えること。それを誰よりも熱量高く伝えることは大事にしています」

相手を知る。

なぜ一緒にやりたいのかを伝える。

そして、自分自身が誰よりも楽しむ。

これまでの話が、そのまま今の挑戦にもつながっている。

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介護と、今まで交わらなかったものをつなぐ

今後やりたいことを聞くと、髙見さんはさらにその先の話をしてくれた。

「介護という分野に、いろんな企業をドッキングしていきたいんです」

介護業界の中だけで考えるのではなく、これまで接点がなかった企業や業界とも一緒に何かをつくっていく。

そうすれば、利用者さんへ届けられるものの幅も広がる。

そして働く人にとっても、自分たちの仕事をより誇れるきっかけになるかもしれない。

「街中でその企業を見た時に、子どもに“実はうち、この会社と一緒にやってるんだよ”って言えたら、社員も幸せだと思うんです」

ただ会社を大きくしたいわけではない。

いろいろな人や企業とつながることで、介護の可能性そのものを広げたい。

「共感してもらえる方を増やしていきたいと思っています」

髙見さんは、最初から今の働き方を目指していたわけではない。

理学療法士として現場に立ち、「もっとたくさんの人を笑顔にしたい」と思った。

そこから外に出て、人と出会い、新しい環境に飛び込んだ。

仕事が変わり、関わる人が変わり、自分の当たり前が通じない経験もした。

それでも、その都度、「どうしたら伝わるだろう」「どうしたら一緒に楽しくできるだろう」と考えながら進んできた。

髙見さんの話を聞いていると、キャリアは「今までと違うことを始める」だけではないのだと感じる。

自分がこれまで積み重ねてきたものを、違う場所で使ってみる。

そうすることで、初めて見えてくる自分の強みもある。

理学療法士として培ってきた「相手を見る力」を持って、今はもっと多くの人と関わろうとしている髙見さん。

その先で、どんな人と出会い、どんなものをつないでいくのか。これからの挑戦が楽しみだ。